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なぜ10年前の贈与が「名義預金」に?相続税調査官が狙う“本当の理由”と対策

読者から質問が来ているので回答していきます。

こんな質問が来ています。

「親から10年前にもらったお金が、相続税の税務調査のときに“名義預金”だと言われました。なぜ“もらったお金”なのに名義預金だと調査官は言うのでしょうか?」


目次

調査官が「名義預金」と言う理由

これは、実際によくあるケースです。たしかにもらったお金なのに、調査官から「それは名義預金です」と言われて、相続税を課税される場合があるんですね。

では、なぜ調査官がそう言うのかというと……
結論から言えば、「取れる方法で税金を取る」ためです。

そう、税務調査の目的はただ一つ。「取れるときに、取れるだけ取る」ことなんです。
そういう現実があります。でも、法律を理解していれば、なぜ名義預金と言われるのかが分かるはずです。
そして、実はそれを回避する方法もあります。


回避方法はある?

え、あるんですか?

はい、あるんです。これはとても良い質問です。
というわけで今日は、

「なぜ10年前にもらったお金が、相続時に“名義預金”だとされて課税されるのか?」
「それをどうやって回避できるのか?」

という話を解説していきます。
親子間のお金の移動というのは、相続において非常に重要な論点なので、ぜひ知っておいてください。


事例で解説:僕のケース(※フィクション)

それではホワイトボードを使って説明していきます。
今回は、仮に僕自身のケースとして話します(※すべてフィクションです)。


2016年11月8日(僕の誕生日)

僕と僕の父が登場人物です。
2016年11月8日は、僕の誕生日です。9年前なので、当時僕は41歳でした。ちょうど創業して4〜5年目の頃で、経済的に少し厳しい時期でもありました。

そんな誕生日に父親が言いました。
「お前、お金に困ってるやろ? 実は子どもの頃から、お前の名義でずっと貯金してたんや」

それで父がこう言ったんです。
「俺はもうお金を使う予定もないし、お前の事業の資金に使え」と。
そう言って、3000万円をくれたんです。

僕はありがたく受け取りつつも、プライドもあるので、
「ありがとう。でも出世払いで返すようにするわ」と伝えました。


増与税の申告はどうなる?

もしこのお金を「もらった」ことにしていたら、これは増与になります。
2016年11月8日の増与なので、申告期限は翌年3月15日。確定申告と同じ日です。

3000万円を増与された場合、増与税は約135万5000円。
かなり高額です。せっかく3000万円もらっても、手取りは2000万円以下になります。

だから僕も悩みました。もらうべきか、どうか。
増与というのは「あげた側」と「もらった側」の認識が一致してはじめて成立します。
契約書がなくても、口頭で成立するのです。

父は「あげる」と言った。僕は「ありがとう、でも出世払いで返す」と言った。
つまり、これは「借りた」という扱いになります。
借りたことにすれば、申告しなくてもいいんです。


そして月日が流れて……

2025年7月9日――つまり今日です(※繰り返しますがフィクションです)。
仮に、今日父が亡くなったとします。相続が発生しました。
相続財産は約4000万円。相続人は僕と姉、そして母の3人です。


相続税の非課税枠とは?

相続税の基礎控除は、
3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
です。

今回のケースでは法定相続人が3人なので、600万円 × 3 = 1800万円。
3000万円 + 1800万円 = 4800万円 が非課税枠となります。

相続財産が4000万円なので、相続税はかかりません。
したがって、僕たちは相続税の申告をしませんでした。


1年後、税務調査が来た!

ところが、その1年後に税務調査が入ります。
調査官が言いました。

「Aさん、申告されてませんよね。本当に相続税はかからなかったんですか?」

相続税の調査では、銀行に対して「反面調査」が行われます。
被相続人(父)だけでなく、家族全員の過去10年分の銀行口座も調査対象になります。


調査官とのやりとり

調査官がこう言いました。

「Aさん、約10年前にあなたの名義で3000万円の預金がありましたよね?」

僕:「え、ありましたっけ? 記憶にございません……」
(便利な言葉ですね)

調査官:「父親からもらったとおっしゃっていますが、その際、増与税の申告をされましたか?」

僕:「記憶に……ございませんね……。でも、もしかしたら“借りた”のかもしれません。
たしか父に“出世払いで返す”って言ったような気がします」

――ということで、これは“貸付金”とみなされました。
つまり、父から僕への貸付金=名義預金だと判断されたのです。

Aという名義の預金口座を使って、ただ貸しているだけなんですよ。
――「はい。」
つまり、その預金口座はA名義ではあるけど、もともとはお父さんの財産ですよね?という話になってくるわけです。

――「うん。はい。分かります。」

ということで、税務調査官はこう言ってくるわけです。
「このお金は貸付金ということであれば、A名義の名義預金になりますよね? つまり実際の持ち主はお父さんの財産ですよね?」と。

――「うん。」

そうなると、「この3000万円は相続財産にプラスですね」と言ってくるわけです。

――「あ、しまった……言っちゃった!そう来たか、そう来たか!」

――「ちょっと待ってください。僕、ちょっと記憶がよみがえってきました……思い出しました!」

確かに僕、「返せるなら返すわ」って言いながら、でも親父が「お前にやるよ」って言ってくれたんですよ。
それで僕は「ありがとう」って言ってもらったんです。ただ「返せる時が来たら返すかもね」ぐらいの軽い感じで、一旦“もらった”んですよ。

――「はい。」

貸し借りの契約書すら交わしてませんでした。

――「うん。」

だからすみません。僕、贈与税の申告していなかったんですけど、あれは“漏れ”です。

――「はい。漏れです。すみません。」

確かに“もらいました”。申告漏れです。本当にすみません。
だからこれは名義預金ではなくて“贈与”です、というふうに僕は言いました。

――「はい。」

そうしたら調査官が言ってきました。
「いやいや、Aさん、そんな風に後から話を変えないでください。贈与の申告していない時点で、あなたは贈与としての認識をしていなかったんでしょう?」と。

――「はい。」

「あなた税理士でしょ?最初に“貸付金”って言いましたよね? だからこれは“貸付金”ですよ。」

――「ちょっと待って。いや、返せたら返すってくらいの軽い話だったし、契約も交わしてない。だから僕はもらったと思ってます。ただ、贈与税の申告を忘れてただけなんです。すみません。本当に申し訳ない。うっかりでした。」

――「はい。うっかりですね。」

でも、税務調査官としては“うっかり”で済まされるのは困るんですよ。なぜなら、貸付金(=名義預金)として相続財産に入れた方が、税金を多く取れるからです。


なぜ名義預金で追及するのか?その裏にある「贈与税の時効」

相続財産が7000万円くらいだと、相続税の税率って10%~55%なんですが、
基礎控除4600万円を引いた残り2200万円に対する税率は10%程度なんですよ。

――「あ、そんなもんなんですね。」

だから大して取れない。
一方で“名義預金”にして相続財産に加えれば課税対象が増えるし、税務署側としても回収効率がいい。

じゃあなんで税務署は贈与として処理しないのか?

その理由は、贈与税には「時効」があるからです。
贈与税の申告期限から6年経つと“時効”が成立して、課税されない。

例えば、1035万5000円の贈与が2023年3月15日時点で6年を経過していれば、これはもうチャラになる。

――「チャラ?!」

はい。だから、贈与として処理された方が、僕にとっては得なんです。
しかも相続財産から3000万円が消えるので、相続税も発生しません。非課税枠(基礎控除)内に収まるんです。

――「賢いですね……」

ただし!
悪質な贈与の無申告の場合、時効は6年ではなく10年なんです。
また、知ってて申告しなかった場合は7年

なので、仮に2017年の贈与だった場合、7年後の2024年3月15日が時効。
つまり、2023年の調査なら時効成立

――「じゃあこれは悪質じゃなかったってことですか?」
――「はい。知らなかった。記憶にございません。」

というわけで、“贈与”として扱えば、贈与税も相続税もかからず、僕にとって一番得なパターンになるわけです。


それを阻止したい税務署の本音

でも、調査官はそれを分かっている。
だから絶対に“贈与”と認めたくない。
「これは名義預金=お父さんの財産です。相続財産に入れてください」と主張してくる。

これは、過去の贈与を名義金として持ってこようとする理由が“時効”の壁にあるからです。
贈与とされると、調査官はもう手が出せない。

そこで彼らはこう言ってくるんです:
「贈与税の申告をしていない時点で、あなたには“贈与の認識”がなかったってことですよね?」

でも、これは違います。
贈与って、口頭でも成立するんですよ。
「くれる」「もらう」で意思表示が一致していれば成立します。

贈与税の申告をしているかどうかは関係ない

――「そうですね!」

だから調査官が何と言おうと、「贈与は成立していた」と主張できます。
成立しているなら時効もある。だから贈与税もかからないし、相続税の対象でもない。


名義金を相続財産に入れないケースは多い。気をつけて!

このようなケース、かなり多いんですよ。
名義は子供の名前になっているけど、実は親のお金だった、というパターン。

でも、もらったのであれば、それは“贈与”です。
その場合はちゃんと翌年3月15日までに贈与税の申告をしなきゃいけない。

申告してなければ、名義預金として相続財産に入れられてしまう。
税務調査官がそう言ってくるのは、当然の流れです。

もし覆したければ、贈与が成立していたことを証明できる状態にしておかなければいけない。


結論:脱税は絶対にNG。時効狙いはやめよう

視聴者の皆さん、ここで誤解してほしくないのは、
「じゃあ贈与税の申告しなければ、時効狙えるんじゃない?」という発想です。

それは完全に脱税です。

悪質な無申告は10年時効になりますし、バレたら加算税や重加算税で余計に持っていかれます。

ですから、正しい贈与であれば、必ず申告しましょう。


今日のまとめ

意図的な無申告は脱税。絶対NG!

名義預金は相続財産に入れる必要あり

もらったなら贈与。贈与税の申告が必要

贈与税には時効(6年~10年)あり

税務署はそれを避けるため、名義預金扱いで来る

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