さて、今回のテーマはこちらです。
「株式会社 vs 合同会社、どっちがいいの? 意外と知られていない合同会社のデメリット3選」
これから起業を考えている方、または個人事業主から法人化を検討している方に向けた内容となっています。なお、「そもそも法人を設立するかどうかで悩んでいる」という方は、過去の動画が参考になると思いますので、ぜひそちらもご覧ください。
また、発売からすでに3年近くが経ちますが、私の著書にも詳しく解説していますので、ぜひあわせて参考にしてみてください。
株式会社と合同会社、結局どちらがいいの?
まず非常によくある質問、「株式会社と合同会社、どちらがいいのか?」という点について、先に結論をお伝えします。
コストをかけずにサクッと作りたい場合は合同会社一択。
信用力を重視したい場合は株式会社一択。
もちろん、「合同会社=信用がない」というわけではありません。ただし、無難に進めたい方にとっては株式会社のほうが選ばれる傾向があります。
とはいえ、合同会社には大きく分けて3つのデメリットがあります。まずはそれを理解した上で、それでも合同会社で進めたいという場合は、設立に進んでいただければOKです。
株式会社と合同会社の比較ポイント
春は何かを新しくスタートするには絶好の季節ですよね。それでは、張り切っていきましょう!
株式会社と合同会社、それぞれの違いを分かりやすく一覧にしてみました。
合同会社とは?LLCの意味
合同会社は英語で Limited Liability Company(リミテッド・ライアビリティ・カンパニー) といい、略して LLC と呼ばれます。なお、法人の形態としてはこれ以外に「合名会社」や「合資会社」もありますが、これらは倒産時に責任の範囲に限度がない「無限責任」であるため、設立されるケースは非常に稀です。
そのため、一般的には「株式会社」か「合同会社」の二択に絞って検討することになります。
① 定款認証と登録免許税
最初の比較ポイントは 定款認証 です。これは、会社のルールブックのようなもので、株式会社も合同会社も作成が必要です。
ただし、株式会社では「公証役場での認証」が必要になります。この認証には最低でも3万円、最大で5万円の費用がかかります。これに対し、合同会社は定款の作成こそ必要ですが、認証は不要です。
次に、設立時に必要な 登録免許税(国税)ですが、これは資本金の1,000分の7がかかります。
最低額は以下の通りです:
- 株式会社:15万円
- 合同会社:6万円
加えて、司法書士に手続きを依頼する場合はその手数料も必要になります。
→ コスト面では、合同会社の方が圧倒的に安く設立できます。
② 出資と意思決定の仕組み
ここが非常に重要な違いです。
株式会社では、基本的に「所有と経営の分離」が原則です。たとえば上場企業をイメージしていただくと、株主と会社の経営者(代表取締役などの役員)はまったくの別人であることが多いですよね。
会社の意思決定は「出資割合に応じた議決権」によって行われ、株を多く持つ人に権限が集中します。
ただし、日本の株式会社の約99%は中小企業で、その多くが「オーナー企業」、つまり株主と経営者が同一人物であるため、この原則は上場企業にしか実質的には機能していないと考えてよいでしょう。
一方、合同会社では 出資者=役員でなければならない という原則があります。
つまり「出資するなら経営にも責任を持ってください」という考え方です。
さらに、意思決定は「合議制」が基本で、出資割合にかかわらず1人1票です。
たとえば、出資比率が99%と1%の2人がいたとしても、意思決定では完全に1対1の平等な扱いとなります。
この仕組みが、後ほどお話しする 合同会社の最大のデメリット の一つです。
③ 代表者の名称と役員の任期
- 株式会社:代表取締役
- 合同会社:代表社員
ちなみに、合同会社では他の役員のことも「社員」と呼びます。「正社員」と混同しやすく、呼び方としては少し馴染みにくい印象を持たれる方もいます。そのため、「代表取締役」と名乗れる株式会社の方が人気です。
また、役員の任期にも違いがあります。
- 株式会社:最長10年で任期満了後に再任登記が必要。登記費用や司法書士の報酬も再度発生。
- 合同会社:任期の定めなし(再任登記が不要)
→ この点も、コスト面では合同会社が有利です。
④ 株式公開(上場)と信用力
株式会社は将来的に 株式を公開(上場)することが可能ですが、合同会社は 株式という概念自体がないため上場は不可です。
そのため、上場を視野に入れているベンチャー企業などは、最初から株式会社として設立すべきです。
また、信用力の面でも一般的には株式会社のほうが高く、合同会社はやや劣ります。「合同会社って何?」と知らない方も一定数いるのが現実です。
⑤ 決算公告義務の有無
- 株式会社:決算公告義務あり(官報などで開示が必要)
- 合同会社:決算公告義務なし
ただし、これは実際にはあまり実行されておらず、中小企業で公告をしている会社はごく一部です。将来の上場を考えている企業以外には、それほど気にしなくてもよい点です。
⑥ 設立コストを大幅に下げる裏技
実は、「特定創業支援等事業」の支援を受けると、創業から5年未満の個人に限り、株式会社・合同会社・合名会社・合資会社いずれの設立でも 登録免許税を半額にできる制度があります。
たとえば、株式会社であれば15万円 → 7万5千円、合同会社であれば6万円 → 3万円に。
この支援制度を利用するには、市区町村が認定する創業支援プログラムで 約4回の研修を受講する必要があります。研修費は1~2万円程度で、コストパフォーマンスとしては非常に高い制度です。
完全合議制(1人1票)で人間関係トラブルが経営に直結
- 合同会社は出資比率に関係なく「1人1票の完全合議制」。
- 夫婦など信頼関係が強いなら問題なし。
- 友人・知人と設立する場合、意見の対立=経営の停滞や分裂リスク。
- 3人以上の設立でも、2人が結託すれば乗っ取りに近い事態にも。
🔧 対策:
- 株式会社を選ぶ(議決権や経営権の柔軟な設計が可能)。
- 合同会社でも定款で議決権の割合変更は可能だが、限界あり。
❷ 「非常勤役員」の概念がなく、社保の加入が必須
- 合同会社では役員=出資者で業務執行権を持つ=常勤とみなされる。
- 例:配偶者を非常勤役員にして節税(130万円以内で扶養維持)は基本不可。
- 株式会社では非常勤役員なら社保不要 → 所得分散&節税可能。
🔧 対策:
- 定款を修正し、配偶者を「業務執行権のない社員」に設定(法的には可能)。
- それでも実質的に業務に関与していないと「脱税」扱いになるリスクあり。
- 株式会社へ組織変更するのが最もシンプルで確実。
❸ 役員(社員)が死亡すると「退社扱い」→ 会社解散や乗っ取りリスク
- 合同会社では、社員(=役員)が死亡するとその時点で退社扱い。
- 相続人には出資金の払い戻し請求権しかなく、会社の経営権は得られない。
- 一人会社であればそのまま会社解散。
- 複数人会社なら、他の社員が残る=実質的な乗っ取りが発生する可能性も。
🔧 対策:
- 定款に「死亡時の持分を相続人が承継して社員になれる」旨を明記する。
- 遺言書で「誰に持分を相続させるか」まで明記する(遺産分割協議の手間を省く)。
🏁 総まとめ:合同会社の特徴と注意点
項目 | 合同会社 | 株式会社 |
---|---|---|
設立費用 | 約6万円〜 | 約20万円〜 |
意思決定権 | 原則「1人1票」 | 出資比率で決まる |
非常勤役員 | 概念なし(社保加入必要) | 概念あり(社保不要可) |
社員死亡時の処理 | 退社・出資金払い戻し | 株式を相続できる |
所有と経営 | 一致(出資者=経営者) | 分離可能(株主≠役員) |