実は法人よりも厳しい?個人事業主の飲み代・食事代に対する税務調査
伸び代や食事代の取り扱いに関しては、実は法人よりも個人事業主のほうが税務調査が厳しいという実態があります。
こんにちは。今日もビジネスと税金について考える「税理集中バー」です。
当チャンネルは、私・広藤が、世の中のお金や税金に関することをできるだけ専門用語を使わずに、分かりやすく噛み砕いて解説するというコンセプトでお届けしています。
さて、今日のテーマはこちら。
**「飲み代や食事代は経費になるのか?――接待交際費の税務調査では、実は法人より個人事業主のほうが厳しい」**という内容でお送りします。
今回は個人事業主向けの中級編としてお届けいたします。
飲み代や食事代は経費にできるのか?
個人事業主やフリーランスにとって、飲み代や食事代が経費として認められるかどうかについては、過去の動画でも何度か解説してきました。
通常、個人事業主や個人の大家さんに対して税務調査が入るケースは非常に少なく、レアなケースです。しかし、私の事務所でも数件、そうした調査に立ち会う機会がありました。
その中で、飲み代・食事代――つまり接待交際費に対する追及が非常に厳しかったのです。
「個人事業主だから法人より甘く調査されるのでは」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。むしろ非常に厳しくチェックされるというのが実態です。
結論:法人と個人事業主で異なるルール
まずは結論から。
法人の場合、法人税法上、ざっくり言えば年間800万円の限度があります。
正確には、接待交際費の全体のうち、50%を超える部分または年間800万円を超える部分については経費にできません。
また、資本金が1億円を超える法人ではこの計算がさらに厳しくなり、100億円を超える法人に至っては接待交際費は全額経費にできません。
一方、個人事業主や個人の大家さんには、このような上限規定が法律上存在しません。
では、「無制限に経費計上できるのか?」というと、もちろんそうではありません。
その支出が実際に接待として行われた事実や、業務との関連性については、非常に細かく確認されることがあります。したがって、個人事業主の皆さんは特に注意が必要です。
経費にできる飲み代・食事代とは?
ここからは、以前の内容も振り返りながら、まず「経費にできる飲み代・食事代とは何か?」について解説していきます。
個人事業主や大家さんの確定申告においては、「売上」と「必要経費」の集計が最も重要です。
事業所得の場合は、「売上 − 必要経費」が事業所得となり、不動産所得の場合も同様です。
青色申告をしている方は、青色申告特別控除を受けることもできます。
この事業所得から、医療費控除・基礎控除・配偶者控除などの所得控除を差し引き、課税所得が決まります。課税所得に対しては、**超過累進税率(5%〜45%)**を適用して所得税が計算されます。
さらに、所得税額に対して**復興特別所得税(2.1%)**が加算され、また住民税(10%)も課税されます。
所得が一定額を超えると、事業税も課税され、たとえば年間290万円の所得があるとその対象になります。
必要経費とされる飲食代の判断基準
必要経費として認められるかどうかは、所得税法第37条に記されています。
「これらの所得の総収入金額(=売上)に係る売上原価およびその他その収入を得るために直接要した費用の額、並びにその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」とあります。
かなり抽象的で分かりづらい表現ですが、要するに、
- 売上に直結する「仕入れ原価」
- その年に直接要した費用(販売費や一般管理費)
が必要経費に該当する、ということです。
そのため、飲食代が経費になるかどうかの判断は非常にグレーで難しいところです。
飲食代の分類と注意点
会計処理の際、以下の5分類を意識して仕訳することが重要です。
- 自分ひとりの食事代
→【NG】これは「家事費」に該当し、完全に経費対象外です。
「カフェで仕事してるから経費になるでしょ?」という相談もありますが、税務署の見解は甘くありません。
通常の食事と区別がつかず、私的支出と判断されるため、経費として認められません。
ただし、自宅が工事中で騒音がひどい・Wi-Fiが故障した・外出中にZoom会議があるなど、やむを得ないレアケースでは、例外的に経費と認められる可能性もあります。
接待交際費
→【条件付きOK】法人よりも個人事業主は判断基準が厳しいです。
「飲み会なら何でも経費で落とせる」と誤解している方が多いですが、事業との関連性が明確でなければ経費になりません。
また、個人の中でも、不動産所得のほうが経費認定の範囲が狭いことにも注意が必要です(詳細は後述します)。
福利厚生費
→【一部OK】従業員を雇用している場合に限り、対象になります。
ただし、個人事業主本人に対しては対象外なので注意してください。
会議費
→【OK】打ち合わせ目的でカフェや喫茶店を利用し、2人以上での会議であれば経費になります。
理想は議事録を残すことですが、口頭であっても「どのような内容の打ち合わせだったか」を説明できるようにしておきましょう。
在宅勤務で来客が難しい場合など、外での会議利用は正当な理由になり得ます。
税務調査で実際にあった事例から学ぶポイント
ここからが本題です。私が立ち会った実際の税務調査の事例を紹介します。
対象となったのは、市場業の方、不動産賃貸業の方、副業で大家業をしているサラリーマンなど、いずれも個人事業主でした。
個人事業主は法人と違って、接待交際費に関する800万円の上限がありません。
ただし、その分、税務調査ではより厳しく細かく見られる傾向があります。
特に接待交際費を多く計上している方は注意が必要です。
例えば不動産業や建設業では金額が大きくなりがちですが、製造業や市場業の方ではそれほど多くはならない傾向があります。
私の感覚としては、売上の5%を超えなければ問題にならないことが多いです(あくまで個人的な目安です)。
実際、私の会計事務所の接待交際費は売上の0.5%程度です。
ただ、税務調査の際には売上の50%近くを接待交際費として計上していたケースもありました。
当然、これは調査官から厳しく指摘を受けることになります。
接待交際費が否認される理由と対応策
接待交際費が多すぎると、プライベートな飲食が混じっているのではないかと疑われます。
法人であれば800万円という目安がありますが、個人の場合それがないため、調査官は同業他社の平均と比較して判断することがあります。
たとえば、「他社は売上に対して3%なのに、あなたは10%ですよ」というように指摘されるわけです。
ですが、実際に接待の事実があるのであれば、たとえ税務調査官から修正申告を求められても、それに応じる必要はありません。
同業他社と比較して否認するというやり方はよくある手法ですが、反論できる材料があるなら、しっかりと主張してください。
ただし、もしも本当に友人との飲み会などを経費にしていた場合は、素直に修正申告を行いましょう。
領収書のメモ書きが命運を分ける
今回の税務調査で突っ込まれた最大の理由は、領収書にメモ書きがなかったことでした。
領収書は取ってあっても、それだけでは証拠としては弱いんです。
ですので、誰とどこで何の目的で会食したのか、簡単でいいのでメモを残してください。
できれば「○○会社の営業担当△△さんと新規取引の打ち合わせで利用」など、後から自分で説明できるようにしておくと安心です。
実際、調査の際には過去の手帳やスケジュールを見返して記憶をたどり、領収書にメモを追加して対応しました。
それでもプライベートな飲食が混じっていた場合は、該当分を除いて修正申告を行いました。
また、会社の経費と副業の経費が重複していないかも注意が必要です。
勤務先ですでに経費精算した飲み代を、自分の副業でも経費にしていたというケースもありましたが、これは明確にNGです。
不動産所得の経費はさらに厳しく見られる
なお、大家業をしている方の経費についても補足します。
こういった方々は「不動産所得」として扱われますが、これは「事業所得」に比べて経費として認められる範囲がかなり狭くなります。
税務署の考えでは、不動産オーナーにとっての接待相手は「入居者だけ」だという認識があるからです。
つまり、不動産営業の担当者や管理会社との会食でさえも、経費として認められにくいケースがあるということです。
こうした制約が煩わしいと感じる方は、法人化を検討するのも一つの手です。
法人であれば経費計上の幅が広がり、ビジネス全体の自由度も高まります。
領収書管理のコツとおすすめテンプレート
基本的には、領収書に手書きでメモしておけば問題ありません。
しかし、よりしっかり管理したい方は、Excelで「管理表」を作ることをおすすめします。
例えば、「取引先名・担当者名・日付・金額・人数」などを一覧で記録できるテンプレートを作成すれば、法人の場合における「1人当たり5000円以内」の判断基準にも役立ちます。
手間はかかりますが、こうしたテンプレートを活用することで、税務調査の際もスムーズに説明できます。
必要な方は、私の使っているテンプレートをそのまま使っていただいても構いません。
最後に伝えたいこと
法人には接待交際費の上限として年間800万円という目安がありますが、個人事業主にはそれがありません。
しかし、だからといって無制限に経費計上できるわけではなく、その分、事実関係をより細かく見られるという点を忘れないでください。